みぎのほっぺに冬の夜

Träume sind Schäume.

2023 #2『ハムレット』

たまたま3月12日の公演を当ててしまったばかりにトラジャのデビューコンオーラスに行けなかったので、絶対後悔させてくれるなよという極めて理不尽な気持ちで世田谷パブリックシアターに初めて挑んだのだけれど、結論として後悔のない良い舞台だった。野村裕基さんのハムレットが、あまりにあまりによくて、気が狂った。

3時間半があっという間に過ぎ去った。そもそも全く説明を読んでいなかったので圭人がハムレットだと思っていたら全然違う役だった。言ってしまえば端役なのだけれど、主役ではないこういう類の役を、こういう舞台で経験させてもらえるのは圭人のキャリアにとってものすごく重要な経験なのではないかなと思った。確かにポスター見ても真ん中にいないなとは思っていたんだよな(気づけ)。

野村裕基さんの演じるハムレット、まず声があまりにもよくて、そして舞台あるいは演劇にとって声ってもう全てだとわたしは思っているので、もうこの声を聞けただけで満足だと思った。地を這うような絶望と嵐のような怒りの激流、「怒」の概念そのものを模ったような良い声だった。こんなにも母音を全て綺麗に丁寧にはっきりと発音する人を他に知らない。

ハムレットという演目を観劇するのは4年ぶりで、それこそ前回見たハムレットはストレートプレーのド真ん中という感じだったので、今回の能や狂言的な要素を含めた演目もすごく面白かったし、風磨くんのハムレットを相対的に考察し返すこともできて楽しかった。風磨くんのハムレットが厳かで上品な深い哀しみを湛えていたのに対して、野村裕基さんのハムレットは激情の悲しみ、烈火の怒りを纏っていて、その対比がとてもよかった。

率直に言って、萬斎さんを見ることで知りたいと思っていた感情の全てが、野村裕基さんによってもたらされた。舞台映えする恵まれた体躯、役に見合う気品とプライド、父に寸分も見劣りしない抜群の舞台度胸と身のこなし、そして何より声。

声が良い、発声の仕方が良いということは今後も否応なく続くであろう彼の舞台人生において大切な相棒になるのだろうと思ったし、是非ともそれを追ってみたいと思った。